2009年11月30日

コロンにいかが

 ある時期、私の下宿は飲み屋であり、雀荘であった。鍵は表に置いてあり、誰もが自由に出入り出来る部屋になっていた。クラブを掛け持ちしていた事でもあり、私が帰るとクラブ対抗麻雀大会が開催されていたり、合コン風飲み会が盛り上がっていたりと、原住人が誰であるのかが明確で無くなっていた。
 先輩も同輩も後輩も紳士淑女であり、鍵が外に無いときには彼女が来ているという事を知っており、入ってくることは遠慮してくれた。それでも、電話で鍵を開けるように催促してくる事はあった。そういう時は、えてして手土産が付いてくることが多く、喜んで鍵を開けたものである。

 手土産で一番多かったのは酒類であり、次が食品類であった。特に長期の休みの終盤には、地方地方の銘酒や珍味が届くのである。また、海外旅行のお土産として珍しい酒が持ち込まれる事が多かった。アラックやマールなどを初めて口にしたのも自分の下宿であった。また悪友達もそのことを認識していて、その時期は彼女と二人だけで過ごせる日はほとんど無かった。
リビングの本棚は、知らない間にホームバーとなっていくのである。自分で買ってくる「オールドクロー」と「シャンデリゼの霧」は常備されており、そのほかにもウイスキーだけではなく、ブランデー・テキーラ・ラムなどの有名どころだけではなく、ピンガやグラッパや焼酎なども並んでいた。冷蔵庫も2台あり、大きい方は日本酒とビールが冷えており、冷凍庫にはジンとウオッカが入っていた。安物のバー並みにはそろっていたように思う。
 部屋に入った人は勝手に自分の好きな酒を飲み、無くなったら買ってくるというのが暗黙のルールになっていた。クラブや学部、年齢などはあまり気にせず、先輩も後輩も平等に飲んで食って笑って語っていた。

 他所の女子大との合コンというのが流行っていた時期でもある。メンバーに不足が出た場合に、私にもお声が掛かった。飲み会に誘われて参加しないはずなど無く、喜んで出掛けって行ったものである。資生堂からタクティクスというオーデコロンが新発売になっており、学生達は喜んで使っていた。私は当時からそんなことには無頓着で、旅と口に入れることに興味があり、それ以外に使えるお金を持っていなかった。香りで女性が口説けるなどとは思っていなかったので、手元に無かった。
 ある日、合コンに誘われた。クラブの練習日で体中が汗にまみれていたが、集合時間までに風呂に入る時間はなく、コロンの代わりになりそうなものを探した。目に付いたのが、本棚という名のバーにある酒である。なんとなく「ジャックダニエル」をチョイスして少し体に振りかけて出かけた。ある女性がその香りに気づき、コロンの名前を尋ねてきた。素直に答えると、「そんなコロン知らない。」という返事が返ってきて爆笑した記憶がある。
 
 2次会で「ジャックダニエル」をキープして飲んだ。テネシーウイスキーであり、楓の炭濾過などという詳しい事は知らなかったが、女性達とワイワイ騒ぎながら飲む酒であり、不味かろう訳はない。それ以降、ホームバーの片隅にはコロンの代わりに常備されるようになった。もちろん胃で消費する量の方がおおかったが。

 バカ騒ぎと、甘い香りに乾杯!
 
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2009年11月25日

中心と出会う

 バー通いをしだしたのは、3回生になってからのことだった。その当時はよくもてたと言っていいぐらい、バーに一緒してくれる女性に不自由はしなかった。「矢沢」というバーによく通っていたが、酔うことを目的にバーボンを中心に飲んでいたように思う。量が飲めるのが自慢であり、酔いつぶれないのが自慢だった。麻雀で勝ってはバーに貢いでいた時期である。

 なんとなくバーボンの気分ではなく、カウンターに座り目に付いたスコッチモルトを片っ端から飲んでいた。するとマスターが「ちゃんと味や香りを覚えたかったら、何かをキーにして飲み比べをする方が分かりやすいよ。」とアドバイスしてくださった。そのバーにはオフィシャルの12Yクラスが15種類ぐらいは並んでおり、どれも個性的だとは思っていた。

 そこで、マスターの薦めもあって「グレンリベット12Y」をキーモルトに決定した。それ以来何処のバーに行っても、スコッチを頼むときは1杯目にはグレンリベットをオーダーしたし、家にも1本置いておきいやと言うほど飲み続けた。バーではそのグラスが空になる前に2杯目をオーダーし、違いを感じるようにした。Theがついているからこの酒を選んだ訳ではないが、いまだにスコッチモルトの中心に存在する酒であることに変わりはない。

 今でも大好きな酒の一つであり、何か飲もうかなと思ったときにはつい手が伸びてしまうのだが、いまはオフィシャル12Yは店にない。いつの間にかもっと美味いモルトを飲むようになったのであり、ボトラーズに走るようになった。よその店では今でもオーダーすることがあり、なんとなく懐かしい味に感じる。

 すばらしいアドバイスと、マスターに乾杯!  続きを読む

Posted by comemas at 10:58Comments(0)TrackBack(0)お知らせ

2009年11月20日

なんじゃこりゃ

 基本的に大学には行くが、クラブハウスと雀荘とアルバイト先に通っているのであって、勉強するために通っていたのではない。ローバースというキャンプ生活を通じて人とふれあう事を目的に、山登りを中心に活動しているクラブにも参加していた。その活動中に、口説きたい女性と出会った。中高と6年間男ばかりの中で生活していたのだから、女性を見ただけで誰もが美しく見えたのかもしれないが、同じ学部の女性には惹かれなかった。

 コンパや打ち上げという名目の飲み会はしょっちゅうあり、学部と写真部とローバースの全てに参加するとほぼ毎月のように大人数で飲んではいた。しかしデートという形で、二人だけので夜の街に出かけたことなど無かった。万全を期すため、生まれて初めて一人で夜の街に出た。
 広島には流川と薬研堀という繁華街があり、大学から歩いても10分ほどしかっからなかった。いかに厚かましいとはいえ、デートコースまで先輩に相談するわけにもいかず、ミニコミ誌を片手に歩き回ったあげく薬研堀の「徳助衛」というおでん屋さんに飛び込んだ。どう見ても社会人しか飲んでいない中で、いかにも学生でございますという格好で、なんとなく肩身の狭い思いをしつつどぶろくを頼むと、おやっさんと呼ぶのがふさわしそうな店主が升を受けた1合のグラスにどっとあふれるまで酒を注いでくれ「学生さんやろ、まけといたるけん。」と一言が付いてきた。その顔は神様のように思えた。おでんと土手焼きを数種類頂き、もう一杯酒もお代わりして店を後にした。

 流川に戻り勇気を振り絞り、名前は忘れてしまったが日本バーテンダー協会の方がやっているバーの扉を開けた。数名のお客様がすでにグラスを傾けて、にこやかに話をされていた。入り口に近い席に着くと、白のカッターシャツに蝶ネクタイ姿のマスターが「いらっしゃいませ」といたって普通に出迎えてくださった。何をどうオーダーしていいかも分からず、素直に初めてであることとスコッチウイスキーを飲みたいことを告げた。

 「これは飲まれたことがありますか?」と目の前に出されたボトルが「ラフロイグ」であった。スコッチモルトは「グレンフィディック」しか飲んだことがないのだ。見たことがあるわけもなく「いいえ。それを下さい。」と答えた。先輩の家で飲ましてもらうストレートグラスではなく、ウイスキーがモルトグラスに注がれてしずしずとカウンターに置かれた。歯医者にでも入ったかのような香りが漂い、本当に飲める酒なのだろうかと疑った。マスターからウイスキーに関する話を聞きながらチビリチビリ飲んだが、決して好きになれそうにはなかった。その後も何度かその店には通ったが、ラフロイグを注文した覚えは無い。

 すばらしいバーテンダーさんと、新しい出会いに乾杯!

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Posted by comemas at 13:48Comments(0)TrackBack(0)お知らせ

2009年11月19日

後輩特権

 高校卒業と同時に、広島での一人暮らしが始まった。6畳の部屋に台所とトイレは付いていたが、風呂は銭湯通いである。自分一人で生活するのは初めての事で、初めての土地で知り合いも全くなく不安だらけのスタートである。小さい頃から鍵っ子で自分の食べ物を作るぐらいのことは出来たが、財布の管理まではしたことがなかった。

 案ずるより産むが易しで、大学にさえ行けば大概の物はそろうということを知った。また学校の側には学生向けの安い店も多くあり、アパートは寝るだけの場所になる日まで時間のかかろうはずはなかった。クラブハウスに行けば、先輩達が交代で、麻雀や飲みに誘ってくれるのである。

 写真部に4回生の和田さんと松尾さんいう先輩がいらした。このお二人は麻雀も教えてくださったというか、そうとう小遣いを持って行かれたが、負けた日は何か晩ご飯をごちそうしてくださった。和田さんのアパートには常に何本かの酒が置いてあり、おじゃますると「何か飲むかね?」と言っては、ウイスキーをストレートで注いでくださった。

 ある日おじゃますると、グリーンの三角形の瓶が本棚の隅に立っているのに気づいた。小学生の時に家で盗んだ最初のウイスキーである。私が学生時代には、スコッチモルトが今ほど輸入されていなかったと思う。スコッチと言えば「ジョニーヲーカー」であり「オールドパー」であった。「グレンフィディックですか?」と尋ねたら、「よく知ってるな。飲むか?」と言っていつものようにストレートグラスを満たしてくださった。

 こんなに薄い色のウイスキーもあるんだと不思議に思ったのを覚えている。日頃飲んでいた安物のウイスキーとは全く違う、複雑でいて透き通った香りと雑味のない味に感動した。いつものペースで飲めず、チビリチビリと長く楽しんだ。美味い酒は酔うために飲むものではなく、楽しむためにあるものだと気づいた瞬間である。

 良き先輩と、モルトウイスキーとの出会いに乾杯!  続きを読む

Posted by comemas at 13:31Comments(0)TrackBack(0)お知らせ

2009年11月18日

タプローズ8Y

 この酒との出会いは大学時代に遡る。福山の住吉スクエアーの4Fにあったジャズクラブというバーによく通っていた。毎週火曜日と土曜日はライブがあり、常連の一人であった。ある日マスターから「樽に入った酒を買うのだが、先に何本かキープしてほしい」という提案が常連達にあった。学生のことで財布の状態は今と等しく常時カラに近いが、なんとか工面して3本キープすることにした。

 普段は一番安かった「オールドクロー」をキープしており、スコッチを飲めるのは年に数回しかなかった。それもほとんど他人の酒を飲ませてもらうという形で口にできたのだ。家では「シャンデリゼの霧」というフランス産のビートから作られた焼酎を飲んでいたように思う。たまに実家から盗んで帰った「サントリーオールド」や「サントリーリザーブ」は高級品の部類に入っていた。

 支払ってから数日後に「タプローズ8Y」の樽が届いたとの連絡が来たので、その晩にいそいそとバーへ出かけた。カウンターの片隅にどかんと置かれた樽は、黒く光っており重々しく感じられた。いかにもウイスキーの樽であり、バー全体に威圧感を醸しだしていた。早く飲みたい衝動を抑えることなどできるわけがない。マスターも何も言わずにストレートグラスにあふれんばかりを注いでくれた。

 カウンターのグラスを持ち上げることが怖くて口から迎えに行くと、大人の香りが鼻の奥から脳天まで瞬時に広がった。飲むことなどもったいなくて少しなめてみると、甘くふくよかな香りが体中に染み渡っていく気がした。その日にオールドクローの瓶に詰めてもらったのが1本目である。うまい酒が何日もあるわけは無く、一月もたたないうちに飲み干してしまった。2本目もぐびぐびと飲んではいたが長期の休みが間にあり、ほぼ一月のあいだ山に籠もっていたので数ヶ月は持った。無くなった日に3本目をもらったら、香りも味も変わっていることに気づいた。ウイスキーが樽の中で熟成することを、身をもって知った瞬間であった。当時は自分がバーをやるなどということは、さらさら考えてはいなかった。

 その後も色々なバーとバーテンダーの方々と出会い、自分でやってみたい商売として自分の中で成長し、ついに自分のバーを持つ日が来た。スタート時はなんちゃってバーであり、リキュールも含め100本のボトルが並んでいたに過ぎない。たった9席のバーなのだが、最初から1席分を陣取るにもかかわらず、どかんと「タプローズ8Y」を樽ごと店に置くことは忘れなかった。今は一時的に「オリジナルブレンド」に場所を取られているが、潰れるまで有り続ける事は間違いないだろう。

 安くで安心して飲める1杯に乾杯!
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Posted by comemas at 13:55Comments(2)TrackBack(0)お知らせ

2009年11月18日

こそっと酒を飲む

 店の片隅にドカンと居座っている樽がある。貫禄はあるのだが、いかんせん狭い店にとっては嵩張る存在でもある。もともとはタプローズの樽にブレンドウィスキーを詰めたもので、年に1回のお祭りに混ぜ合わせてもらった。できたては少し角があったが、数ヶ月を過ぎてまろやかに熟成してくれた。

 樽の下にメジャーカップが付いており、そっとグラスで押し上げてやると30mlが自動的に注がれる仕組みになっている。わざわざボトルを取り出す必要がないので、自己消費が大量に発生する酒である。特に飲みたい酒が決まらない場合にチョイスするには、持ってこいの酒といえる。非常に上品なブレンドに仕上がっており、度数も高くないので非常に飲みやすい。

 ブレンダーの辰巳氏と岩田氏の造り上げた傑作といえる。一応はチーフブレンダーとして、ベースのブレンドを加工しようとは試みたのだが、あまりの出来の良さに手が出なかった。グレンファークラスの1962と1966数種、ボウモアの1966、ブナハーブンの1966を少量加えて出来上がりとなった。

 私はお客様と一緒に酒を楽しむのだが、 オリジナルブレンドは特に盗みやすい酒である。グラスを樽に近づけるだけで、その中から芳醇な香りを湛えた酒が満たされるのだから。注がれた酒は私を愉快にし、シャイなバーテンダーがお客様と対等に会話ができるように、寛ぎと快感をもたらしてくれるのである。

 心地よい時間と、甘い香りに乾杯!  続きを読む

Posted by comemas at 01:34Comments(2)TrackBack(0)お知らせ